合衆国封鎖(上・下)

ノベルス版 2002年5月25日初版発行(上下巻共)「34-45.46」

 アメリカで天然痘とエボラを合成したキメラウイルスがアメリカで散布された。ワクチンは無く、致死率は90%以上。全世界に蔓延すれば人類の存亡に関わると判断した合衆国政府は北米大陸封鎖を宣言し、出国した航空機などはアメリカに引き返すか或いは米軍機による撃墜命令が出された。この攻撃を掻い潜った旅客機も厳寒の世界でサバイバルを強いられる事に。アメリカ国内でも決定的な対策が得られないままウイルスがまん延し、アメリカを侵食していった。

「ゼウス(ZEUS)人類最悪の敵」「深海の悪魔」などパニックノベルの頂点と言って良いでしょう。犯人探しやワクチン研究になど謎解きにはそれほどページを割かず、絶望的な状況の中いかに人間としての理性と文明を崩壊させる事無く、救援物資補給や国際治安部隊投入と復活する日まで保たせるかに重点を置いています。

 中央公論のシリーズと言う事で、最初JET航空001便に乗っていた空挺隊員がサイレント・コアご一行だと思ったものの予想は外れ、まったく違うシリーズかと思いきややっぱり出て来ました。
「石油争覇(オイルストーム)」の田口君も1士になって登場です。スナイパーとして活躍しているのでツンの役から徐々に移行していくのでしょうか?
 最後にあのメールのやり取りはイタ過ぎです。1/144デンドロさんやメガネっ娘とか小一時間問い詰めたいとか分かってしまう自分も自分ですが。

合衆国消滅(上・下)

ノベルス版 2002年10月25日初版発行(上巻)「34-47」
      2002年11月25日初版発行(下巻)「34-48」

 アメリカ全土を襲った天然痘キメラウイルスは合衆国の政治経済、市民の生活まで麻痺させて実質的に無政府状態となり、市民は自衛隊を初めとする国連部隊と市民ボランティアのか細い支援を受け、ウィルス感染と民軍“ミリシャ”の襲撃に怯えながらワクチン完成を待つ日々だった。
 日本はウィルスに汚染されず、インフラが充実しているラスベガスにアメリカ支援拠点を設置すべく自衛隊及び韓国工兵隊を投入した。同じくラスベガスを西海岸の要衝と捉えた“ミリシャ”が攻勢に出ようとしていた。 
 今だワクチンも開発されず、特効薬は耐性ウィルスによって効果が無くなりつつあり、、更にはウィルスがイギリスにも上陸したりとペースは抑えながらも徐々に世界中に浸透しつつあり、限りなく綱渡りの状態で人類の未来が保たれています。

「合衆国封鎖」の続編の本作品、前作に出ていたヲタク少年綿貫岳雄も登場しますが、平和部隊の中尉としてヲタ風味は薄くなって活躍します。ただアメリカ人のウィルはミリシャ掃討作戦に「星の屑作戦」と命名したりしていますが…。
相変わらずネットワークや最新兵器を駆使して作品を展開しています。しかしピラニアを自衛隊が装備していますが、現実世界の96式装輪装甲車や

「環太平洋戦争」で出て来たガスタービン搭載の97式装甲車を活躍させずに、また新装備を登場させるというのは贅沢なものです。

 アメリカ分断(上・下)

ノベルス版 2003年3月30日初版発行(上巻)「34-49」
      2003年3月30日初版発行(下巻)「34-50」

ヨーロッパに上陸した疫病のため、補給物資の供給が滞った東部を見捨てアジアからの物資に溢れている(と噂される)西海岸へと向かう避難民達、そして彼らには疫病の他に餓えや寒波、山賊など数多くの難関が待ちうけていた。イギリスから大戦中の爆撃機を飛ばして救援物資を運ぶ男達や避難民に援助物資を提供するボランティア団体、山賊や民兵から避難民を守る日本自衛隊。
しかし時がたちキメラ天然痘の脅威が薄らぐ中で欧州など諸外国の思惑が、アメリカに新たなる危機を呼びこもうとしてきた。

合衆国シリーズの5.6冊目に当たる本巻ですが、大きな転換点になるようです。今までアメリカ軍を除けば、大きな兵力を展開していたのは日本の自衛隊、それでも治安維持を目的とした程度のものでしたが、欧州は戦車や戦闘機など国体を維持するための軍事力を投入し、アメリカ東部に影響力を与えようとしています。東西アメリカ分断の序章といえるでしょう。

合衆国再興(上

上.コロラド・スプリングス

ノベルス版 2003年7月25日初版発行「34-51」

欧州軍が上陸したものの、さらに強い感染力を持ったウィルスによりまともな支援を行なう事が出来ない東海岸。民兵組織カリフォルニア軍団と西海岸の行政組織が連携した西アメリカ同盟(WAA)着々と救援物資を内陸部に輸送することが可能となった西海岸。拡張を続けるWAAは同盟地域の飛び地を埋めるべくコロラド州のNORADを攻略し、遂に米軍同士部隊規模での戦闘が開始された。
一方ニューヨークではキメラ天然痘の治療・予防の鍵を握る12人の少年少女達が様々な困難と対峙しながらも必死に生き延びていた。

合衆国シリーズ最終幕となる本編ですが沈静化して来たと思われたキメラ天然痘ウィルスが再び脅威となるなど楽観出来ない状況が続いています。欧州の軍事力も前巻の最後で想像したほどは圧倒的な兵力を生かせてはいないようです。
また最近の傾向として子供達の活躍が挙げられます。民間人のサバイバルもこのシリーズのテーマの一つである、最近の「ゼウス」や「深海の悪魔」などに見られる子供に未来を託す物語が融合しています。


中.テキサスの攻防

ノベルス版 2003年10月25日初版発行「34-52」

合衆国正規軍の砦であったNORADを攻略し、勢いをつけたWAAは南部の要衝テキサスをめざし進軍を始めた。英米正規軍はこれを阻止するため、虎の子の第4デジタル師団と欧州の最新鋭戦闘機タイフーンを擁する空軍がテキサスの守りを固めていた。

NYではキメラウィルス対策の秘密を握っていると思われる12人の子供が感染症研究所に確保されるものの、中心的存在であったジュリエットがギャングによって誘拐されてしまい、司馬3佐が救出に向かうが、誘拐したギャング集団アリゲーター教団に取り込まれた元海兵隊の暗殺部隊が待ち受けていた。


中部要衝であり、合衆国軍の象徴でもあったNORADがWWAの手に堕ち、更に勢力範囲を失いパワーバランスが西部に傾き、欧州からも見放されつつある合衆国ホワイトハウス側。体制維持を図るためにWAAの東部進出を抑える一大会戦のテキサス戦に至るまで、そして12人の少年が今まで生き残った秘密が解き明かされつつある点までを中巻では書いています。
サブタイトルには攻防の文字がありますが、大規模な地上戦は序盤が少し触れられただけですが、空自がアメリカに進出という情報やフランスが躊躇し始めている、そしてフラナガン大統領が…、という状態で、合衆国正規軍の不利が目立ち始めています。

そして箸休めなのかヲタ話にも行数は少ないものの、濃い話が展開されます。私もリアルロボット世代なので、何の疑問も感じずに読むことが出来ました。

私も一応ザブングルの2番(OP)は歌えますし、EDもカラオケで歌詞を見ながらなら歌えます(苦笑

下.約束の地へ

ノベルス版 2003年12月20日初版発行

WAAに加担する原潜『シカゴ』からの攻撃により大統領の座乗する指揮艦『ラ・サール』とミサイル巡洋艦『アーカンソー』が撃沈され、国防長官であるロバート・スコット国防長官が大統領へ繰上げとなった。
WAAの攻勢は勢いとまらず、補給路の橋を落とし、クレイジーヤンキーでWAA軍機甲部隊の戦力を削ぐものの、ステルス爆撃機による爆撃や原潜による空母『ジョージ・ワシントン』を撃沈されるなど劣勢を崩すことは出来なかった。
お互いは状況の打開を図るために核の使用を模索し始める。

「合衆国再興」の、そして合衆国シリーズの最終巻です。合衆国内の内戦、そして致死ウイルスの猛威に決着が付くのかと思いましたが、致死ウイルスの対処法については中巻でエンジェルスにより目処が付き、内戦の収束に重点が置かれています。
内戦自体は当初の両陣営首脳がそれぞれ暗殺されて、穏健派がトップに立つことにより停戦が結ばれ、スコットが大統領、WAAが米軍と両者融合した形となり、少々不安定な形で終結することになります。
ウィルスもワクチン開発までには至らず、合衆国封鎖のラストとそれほど変わらない印象を受けます。累計9巻を重ねたシリーズとしては少し物足りなさを感じる結末でした

朝鮮半島を隔離せよ(上・下)

ノベルス版 2004年5月25日初版発行(上下巻共)「34-54.55」

 天然痘を発症した北朝鮮脱北者が見つかり、そして脱北者が通過したとみられる集落が隔離、処分された。日本、中国、韓国は衛星情報からこの異常事態を察知し、北朝鮮に対して医療支援を決定、武装自衛官を伴い医療チームが派遣された。しかしこの事態を利用して現体制転覆を画策する一派が派遣部隊に襲い掛かった。

 北朝鮮を舞台としたバイオハザードものです。草鹿二佐も登場するので、合衆国シリーズと同じ時系列かと思われましたが、中国と共にアメリカが裏で糸を引いている描写があるので、崩壊してボロボロのアメリカではないようです。
天然痘の方も遺伝子改造を受けているものの、現行の技術で何とか効果が期待されるというレベルであったので、ウィルスの解析よりも支援体制の拡充に話の重点が置かれています。
 理想は現政権より高くとも、将軍様の親類という権威を振りかざし個人の資質がよく見えない反体制派、
現状以上、そして体制崩壊を望まない日本、韓国が北朝鮮を支援するというのは皮肉ですが、この場合は直接北朝鮮国民に支援を行っているのが救いでしょうか。

それと上巻第七章の挿絵ですが、当方で作成したサイレンと・コア識別帽が採用されていました。識別帽自体は合衆国封鎖・下巻の著者近影にて採用して頂いていましたが、本編でも採用していただけるとは思いませんでした。ファン冥利に尽きます。