原子力空母(カール・ヴィンソン)を阻止せよ

ノベルズ版 1987年9月20日初版発行「34-1」
文庫版   1992年9月15日初版発行(徳間書店より刊行)「お-22-1」

ソ連の原潜とアメリカの空母「カールビンソン」が衝突!「カールビンソン」は修理のため、放射能を撒き散らしながら横須賀へ進路を向けた。ソ連は「カールビンソン」撃沈のため、アメリカは護衛のため、そして日本は放射能から日本を守るため、行動を開始した。各国潜水艦の虚々実々の駆け引きが始まる。

あの有名なコミック「沈黙の艦隊」にアイデアが技術提供(笑)された作品です。たとえばフーローティングアンテナで相手の潜水艦のスクリューを止めると言うのはこの作品から取られたものです。もっともその手の事故は想定されていて、アンテナは脆い材質になっているとの事。ほかにも海底火山で魚雷を狂わす戦術もそうです。「沈黙の艦隊」の最終回に「設定協力-大石英司」と書かれるのでは?と密かに期待していましたが、何もありませんでした。

戦略原潜(レニングラード)浮上せず(上・下)

ノベルズ版 1988年10月20日初版発行(上下巻共)「34-2.3」
文庫版   1993年1月15日初版発行(上下巻共 徳間書店より刊行)「お-22-2.3」

豪華客船「クイーン・エリザベス二世」が元SEAL隊員にとソ連戦略原潜「レニングラード」にシージャックされた。グリーンベレーが奪回作戦を実施するも、アメリカ国内に内通者がいため失敗してしまう。ついに東京湾内に入り、日米ソ各国が日本国内で武力行使に出る。

サイレント・コアが初登場する作品です。またまだソビエトと云う国が残っていてその指導者が書記長と呼ばれています。その後の崩壊を見ると、多分小説のような行動を起こす体力はソビエトには無かったのではないでしょうか?一方サイレント・コアはこの作品中では脇役であまり活躍しません。でもサイレント・コアが登場してもう10年以上経つのですね。時が経つのは早いものだ。

 

原潜海峡を封鎖せよ

ノベルズ版 1989年6月25日初版発行「34-4」
文庫版   1993年8月15日初版発行(徳間書店より刊行)「お-22-4」

私が初めて読んだ作品です。掃海艇と言う艦艇の中では比較的地味なフネが主人公となっていますが、中身の面白さは下手な作家がイージス艦をテーマにして小説を書くよりも上です(変なたとえだが)しかし海上自衛隊に詳しい人は掃海部隊が日本で唯一の実戦部隊である事を知っていますし、中東で戦争が起こった場合掃海艇が派遣されるだろうと考えていました。実際湾岸戦争後に掃海部隊はペルシャ湾に派遣されました。後、主要人物名ですが旧日本海軍の提督や参謀から取られています。(米内や源田、草鹿など)

 

核物質(プルトニウム)護衛艦隊出撃す(上・下)

ノベルズ版 1990年6月25日初版発行(上下巻共)「34-5.6」
文庫版   1993年12月15日初版発行(上下巻共 徳間書店より刊行)「お-22-5.6」

プルトニウム輸送船をめぐって日本、台湾、イスラエル、そして中東の石油組織が死闘を繰り広げる作品です。初めて本格的にサイレント・コアが活躍します。それにしてもサイレント・コアが本来の任務で活動したのはこの作品だけではないでしょうか?それと初の女性首相は結局誕生していませんね。モデルとなった土井さんは精力的に活動はしているものの、かつての勢いはありません。まああの時首相になったとしても村山元首相と代わり映えしないと思いますけれど。
メカ描写では空自のF-15「イーグル」と台湾空軍の「経国」戦闘機の空中戦とその後の「イーグル」とイリューシン76空中給油機の接触でしょう。これらの組み合わせは大石英司作品ならではです。

第二次太平洋戦争(上・下)

ノベルズ版 1991年2月25日初版発行(上下巻共)「34-7.8」
文庫版   1994年9月15日初版発行(上下巻共 徳間書店より刊行)「お-22-8.9」

さしずめサブタイトルを付けるとするならば「Noと言ってしまって引っ込みがつかなくなった日本」と言ったところですか。元ネタはもちろん「Noと言える日本」で芦原首相は石原慎太郎、盛谷はSONYグループの会長(元がつくか?)盛田氏で、グッパートはゲッパート下院議員です。このころは日本経済はとても元気があったんですね。アメリカの大企業の支援を外交の切り札に使ったり、この作品の目玉、93式艦上戦闘攻撃機「海燕」の開発費用をあこぎな土地転がしで捻出したりなど今では到底不可能な事が行われています。
内容としては地域を限定しているとは云うものの、(意外な事に)大石英司作品初の本格的な戦闘が繰り広げられます。戦車がストーリーの重要シーンに出てくるのも初めてですが、陸自の74式戦車の搭乗員石橋大尉が戦死したとき、正直言って涙が出ました。政治家たちの行動に怒りを感じつつも職務に忠実であった軍人たち・・・。井上陽水の曲を聞くたび彼らの事を思ってしまいます。

 

ソ連極東艦隊南下す

ノベルズ版 1991年7月31日初版発行「34-9」
文庫版   1995年5月18日初版発行「お-52-1」
(文庫版は「ロシア極東艦隊南下す」に改題)

戦後初めて日本をロシア極東艦隊が親善訪問した。しかしロシア内部ではある陰謀が進行していて、その陰謀に海自護衛艦隊が巻き込まれると言う話です。冷戦が一応の終結を見て混沌としていた頃のなので、内容的にはかなり難しいのでは?ソ連、ロシアの事情を知っていないと理解し辛いです。ノベルズではソ連時代、文庫番はロシアとなって文庫は中身を現状に合わせて少し弄ったとありますが、最大の違いは、事件の黒幕がノベルズではソ連の「特権階級(ノーメンクラツーラ)」、文庫版ではロシアの「マフィア」となっています。(実態はほぼ同じなのだが・・・)ロシアを扱うのって難しいですね(笑)

 

第二次湾岸戦争(上・下)

ノベルズ版 1992年7月25日初版発行(上下巻共)「34-10.11」
文庫版   1995年12月18日初版発行(上下巻共)「お-52-2.3」

中東で再び戦争が起こったら、それに自衛隊が参加したら日本はどうなるのか?かなりスケールの大きい作品です。作中ロシアの大型輸送機が陸上自衛隊の主力部隊を輸送するシーンがありますが、この時小説ならではだなと思ったら、半年後にアフリカのモザンビークへ自衛隊のPKO部隊を輸送するとき、同じロシア製の輸送機で輸送しました。運んだのはパジェロ等でしたが、驚きました。
また面白いと感じたのは、ラリー・クイーンと言うキャラです。彼は実際にはラリー・キングと言いますが、それ以外はだいたい作中の描写通りです。それとディスコ「ジュリアン」は有名だった某ディスコをもじったものですが、作中の時期ごろまで持たずに消えたしまいましたね。(AWACSが導入されているので今より未来、執筆当時に早目に見積もっても‘95年頃かな?)

 

自由上海支援戦争(上・下)

ノベルズ版 1993年9月25日初版発行(上下巻共)「34-12.13」
文庫版   1997年3月18日初版発行(上下巻共)「お-52-4.5」

後に大石作品の主要テーマのひとつとなる、中国問題に本格的に取り組んだ最初の作品です。そして司馬光一尉が初登場し、吉村薫二曹が戦死する物語でもあります。吉村二曹に関しては最初のシーンでパジェロを購入したとき親の退職金を分捕りとあり、エピロ-グでの音無と司馬の会話では、親は中学のとき交通事故で死んだとあります。???分捕った退職金の出所は・・・
コンピュータと通信網が物語の鍵となりますが、インターネットはまだ当時普及しておらず出てきません。

 

環太平洋戦争(1~5)

1.発火する(バーニングエリア)アジア

ノベルズ版 1994年9月25日初版発行「34-14」
文庫版   1997年7月18日初版発行「お-52-6」

土門康平が初登場する作品です。当初音無隊長は土門に対して懐疑的です。特技欄に記載が無いとありますが、(レインジャー資格も持っていないとしたらまずは懐疑的だとしても仕方ないでしょう)と書いていましたが、土門はレインジャー資格を持っています。この項目を作成する時に見落としていました。ご指摘ありがとうございます
この巻ではアジアが紛争の道を転がり落ちる様子が書かれていますが、カンボディアにまた自衛隊がPKO部隊として派遣されています。まあ現状もPKO部隊が出ていないだけであまり変わっていないと思いますが。この前(1997年)の動乱もそうだし。そんな中サイレント・コアはカンボディアの戦場に文字通りに放り込まれます。

 

2.ルビーの泪(なみだ)

ノベルズ版 1994年11月25日初版発行「34-15」
文庫版   1997年8月18日初版発行「お-52-7」

後に土門の妻になり、さらには「鈴木太郎」君を開発する萩本郁恵二尉が登場します。新型ヘリOH-X改は機関砲を搭載していますが、機関砲を搭載する余裕はないような…。それと故障しやすい89式装甲戦闘車を「カロッツェリア」と言っていますが、イタリアの工房の事で、手作りに近い形で車を生産するところから89式も同様に(笑)少数をこつこつ造っているので「カロッツェリア」と呼ばれているそうです。
橋本現首相をモデルとした首相が登場しますが、今の状態ではアジアの紛争に日本が介入しようなんて決断しないでしょうね。まあどちらが正しいのかは判らないけれど。

 

3.神々の島

ノベルズ版 1995年2月2日初版発行「34-16」
文庫版   1997年9月18日初版発行「お-52-8」

タイ・カンボジアから東チモールへと舞台が変わりつつある巻です。この巻の中で97式装輪装甲車について語られていますが、現実の97式はここまで豪華な装備ではないようです。トラックと装甲車の間を取ったような感じでファミリー化に関しては未定です。たしかまだ実戦部隊には配属されていないと思います。でも乗り心地はキャタピラよりタイヤの方が間違いなくいいです。先日、陸自の駐屯地祭での試乗会で確認してきましたから(笑)
東チモールは環太平洋戦争が執筆された頃、日本から議員や民間団体が支援に行きマスコミにも取り上げられていましたが、最近はあまり話題にはなっていません。1997年秋、東チモール支援活動を行っていた名古屋の司祭がお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りします。

 

4.資源は眠る

ノベルズ版 1995年3月31日初版発行「34-17」
文庫版   1997年10月18日初版発行「お-52-9」

東チモール問題に日本が本格的に介入する様子が書かれています。現実のインドネシアでは血は流れたものの、内戦と云う最悪の事態は避けてスハルト政権は崩壊しました。。しかし日本のどのメディアも東ティモールに関しては報道しませんでした。
ポルトガル語の通訳として登場する鷹尾峰子という人物がいますが、この人が大阪弁をしゃべるので、昔大阪に住んでいた私は近所に住んでいたおばちゃんを思い浮かべて読んでいました。この巻で東チモール問題は一応の決着を見ます。やはりこの手の問題は武力でないと解決できないのでしょうか…。インドネシアが平和裏に東チモールを解放するとも思えないし、難しいことです。

 

5.南沙の鳴動

ノベルズ版 1995年6月25日初版発行「34-18」
文庫版   1997年11月18日初版発行「お-52-10」

次に日本は、まるでアジアの膿を全部取り除くかのようにブルネイ問題に取り掛かります。アジアのクウェート、ブルネイ。今まで大石作品において自衛隊は有利に戦っていくか、善戦してきました。この間において初めて自衛隊側が不利な位置にたって戦っています。将軍クラスの戦死者が初めて出たり、イージス護衛艦“きりしま”も大破してしまいます。結局のところ実はアメリカに持っていかれた格好となり、かなり後味の悪い終わり方となっています。
蛇足ながら、文庫版表紙のAWACSのイラストは間違っています。航空自衛隊が装備するAWACSはE-767でエンジンは主翼に片側1基ずつの計2基ですが、表紙イラストはエンジン計4基のE-3「セントリー」(B-707ベース)です。ご丁寧に日の丸も描いています。イージーミスですが表紙なので目立ちます。

 

アジア覇権戦争(1~5)

1.南沙争奪

ノベルズ版 1995年11月25日初版発行「34-19」
文庫版   1998年2月18日初版発行「お-52-11」

環太平洋戦争の第二部です。日本はブルネイ動乱の傷も癒えつつあるけれど、後遺症も残っているといった感じです。しかしすぐに南沙諸島問題に介入させられます。サイレント・コアもフィリピンの空港を確保するため出動します。中国と東南アジア諸国の本格的な対立となった場合日本は人事では済まなくなるでしょう。石油など資源の輸入の大半を東南アジア周りで輸入しているのだから。でも実際の日本だと厭戦気分でいっぱいだろうな。それとも身内に自衛官がいない人がほとんどだから無関心でしょうか。

 

2.深海の覇者

ノベルズ版 1996年2月25日初版発行「34-20」
文庫版   1998年4月18日初版発行「お-52-12」

第二部の前半、南沙諸島編の後半部分です。中国は自国内のエネルギー問題を解決できなくなり、結果、辛うじてバランスを保っていた南沙諸島の軍事バランスが崩れてしまいます。こうなるとサイレント・コアはもう何でも屋ですね。このシリーズはサイレント・コア無しでは自衛隊側が有利に事を進めていく事など不可能です。最初は核テロ対策にしか部隊を投入できないはずだったのに。サイレント・コアがあるからと他の特殊部隊を育成していかなかったのでしょう。まあ米軍のように陸海空軍それぞれが特殊部隊を持つなんて贅沢な事は不可能ですが。

3.巨象の鼓動

ノベルズ版 1996年5月25日初版発行「34-21」
文庫版   1998年6月18日初版発行「お-52-13」

後半になって舞台は中台問題、台湾海峡に移ります。この問題に関して作者は相当気合いが入っているらしく、奥付けを見ても判るとおり3巻から5巻は毎月発刊されています。ただ、舞台が限定されているので幾分スピーディさには欠けますが。日本は台湾側につき、またもサイレント・コアは海峡の第一線に投入されます。でも人質みたいなものですが。順当に発達している台湾と、まだ未知数ながら底無しの市場が見え隠れする中国。台湾は元々台湾人(中国人とはちと違う)のものだから、大陸との統一は必要無いと私は思っているのですが。

 

4.二匹の昇龍

ノベルズ版 1996年6月25日初版発行「34-22」
文庫版   1998年8月18日初版発行「お-52-14」

中国は台湾攻略に秘密兵器の<激光>レーザー兵器を使用します。レーザーとは云ってもSFなどで出てくる物理的な破壊が出来る兵器ではなく、人の網膜を焼いて戦闘不能に陥らせる程度のものです。それでも十分脅威ですが。

5.覇権の果てに

ノベルズ版 1996年7月31日初版発行「34-23」
文庫版   1998年11月18日初版発行「お-52-15」

ついに台湾の要塞島、金門島は中国軍の上陸を許してしまいます。また台湾海軍のフリゲート艦「ラファイエット」級の「西寧(シイニン)」が撃沈されます。この「西寧」は徳間ノベルズ刊の「尖閣に幽霊船の謎を追え」でも幽霊船となって登場します。かわいそうな艦です。
中国軍に対し、台湾軍、サイレント・コア共々大規模な抵抗を試みますが、最後に土門小隊の陣地付近に直撃弾を受け、畑と、ロンが戦死、土門も右足を失います。覇権の果てに各国が得たものは何だったのか。今は戦士たちに束の間の休息が得られただけに過ぎないようです。

 

香港独立戦争(上・下)

ノベルズ版 1996年12月10日初版発行(上巻)「34-24」
同 上    1997年1月31日初版発行(下巻)「34-25」

香港というとてもタイムリーなテーマの作品で、近所の書店でも平積みで話題作とポップがついていました。いつも大石作品が扱うネタは、流行よりかなり早いから・・・。相変わらず最新鋭の兵器を登場させるのがうまく、可変ノズルフランカーや新型ハリアー、輸送艦「おおすみ」など次世代の兵器が目白押しです。また土門も防衛庁防衛研修所研究員の肩書きで出ています。冒頭のシーンはファンならニヤリとするのではないでしょうか?
香港も今はうまく行っていますが、この先どうなる事やら。中国にとっては金の成る樹だからそうそう下手な事はしないとは思いますが。それと私もエヴァの第壱話をリアルタイムで観ていない駄目な人間です(笑)

原油争奪戦争(上・下)

ノベルズ版 1997年3月22日初版発行(上巻)「34-26」
 同 上  1997年5月2日初版発行(下巻)「34-27」

サイレント・コアシリーズの番外編的な存在です。以前の上下巻と違い同時には発売されず、1ヶ月毎に出たので、戦死したはずの畑とロンが出ているのが良く分からず、ちょっと面食らってしまいました。下巻の最後を見てようやく納得しましたが。時系列無視とありますが、今までの各巻とも厳密な意味でのつながりはないとは思うのだけれども。またサイレント・コアには吉野とキムの二隊員が加わっています。
音無隊長は今後当分の間出てきそうに無いので、その分大暴れをします。(と思ったら新世紀日米大戦でもう出てきた)悪徳高級官僚をベイブリッジの天辺の避雷針に連れて行き、置き去りにするのは日本国民なら誰でもやりたい事なのでは?下らん官僚の身内争いに国民を巻き込んで欲しくないものですが、実際の社会でも官僚に振り回されているからなあ。