魚釣島奪還作戦
ノベルス版 2004年10月25日初版発行「34-56」
文庫版 2009年7月20日初版発行
尖閣諸島、無人島であるはずの魚釣島に人影が確認された。海上保安庁が警告のために上陸したが銃撃を受けて撤退、駐日中国大使館員が説得に赴いたものの射殺され、海保SST隊員も5人が戦死した。政府は特殊部隊サイレント・コアを投入、最小限の効果で事態を沈静化しようと動いていた。
日中台がそれぞれ領有権を主張している尖閣諸島が舞台です。海保が巡視船を常時貼り付けて一応の実効支配を行なっている尖閣諸島。海保の警備の隙を突いて魚釣島に上陸した武装集団に対して、海保SST、陸自サイレント・コア、西方普通科連隊(WAiR),第一空挺団、海自SBUの特殊部隊、精鋭部隊が多数登場します。またサイレント・コアも自衛隊体育学校より新メンバーを受け入れて、それぞれの持つ技能を発揮しますが、レギュラーメンバーも田口士長の狙撃や、司馬さんの肉体に聞く尋問などそれぞれの持ち味も健在です。しかし音無隊長は前線には出るものの負傷後送と、その行動はおとなしくなっています。
現在日本の各機関で整備が進んでいる不正規戦闘対応部隊ですが、十分な情報を持たず制約ばかりが多い状況では当然ながら満足に戦える筈も無く、想定よりも少ないとは言え犠牲者が出ます。
自衛隊側の発言権が大きい本作品でさえこの犠牲なのですから、現実世界では更に犠牲者が増えるのでしょう。それ以前に周辺国に配慮して手をこまねいてる可能性も高いですが。
文芸書版 2004年12月20日初版発行
文庫版 2005年12月20日初版発行
10年前行方不明となったYS-11が68人の乗員乗客全員を乗せて2004年8月12日の羽田空港に緊急着陸した。10年の壁に戸惑うものの感動の再開を果たした乗員乗客と遺族たち。しかし3日後の8月15日に彼らは再び消えてしまう運命にあった。
久々のハードカバーです。初版発行部数がかなり少ないという話で心配しましたが、なんとか購入できました。普段とは違う感じで書かれているものの、コミケを気にするヲタが出てきたり、自衛隊や民間の航空機がふんだんに出てきたりと従来どおりの流れも健在です。乗員乗客のうち17人が主に物語内に絡んできますが破綻することなく、それぞれの最終章へと向かいます。悲しい物語だけど、それぞれの人間が残された時間で過去を見つめ直し、10年の穴を埋め、そして今を生きる人に未来を託し、消えていきました。
私は旅先で購入して電車の中で読みましたが、途中不覚にも涙が出てしまいました。ラスト二章あたりは流石に危ないと思い家に帰ってから読みましたが、案の定泣いてしまいました。
ノベルス版 2005年1月25日初版発行(上巻)「34-57」
2005年2月25日初版発行(下巻)「34-58」
シカゴ近郊の国道で多重衝突事故が起こり、事故処理にあたった消防隊員などから被爆に似た症状が現われた。事故に遭遇したトラックに核廃棄物が満載され、アラブ系の人物がトラックの運転手だったという情報からテロの疑いが浮上した。
米英日ロに対して同時核テロ予告の声明も出され、米大統領訪日を控えた日本では米国政府が警察・自衛隊に対してこれまでに無い厳重な警備体制を要請した。
そして予告通り米国主要都市と英国ロンドンに対して核攻撃が行なわれた…。
サイレント・コアシリーズの最新刊です。神サイも含めて最近の刊行ペースは早いので喜ばしい事です。アメリカ在住のテロに巻き込まれた人々の描写が少々合衆国シリーズと被る気がしないでもないですが、まだウィルスのように広く拡散しないせいかコマンド・ソロIIの隊員など軍の士気も高く、希望が持てる展開といえます。
日本での核テロの鍵を握るインドネシア人の拘束に2度までも失敗した公安当局。その間にも核テロの準備は着々と進んでいた。アメリカではテロリストが合衆国政府の息の根を止めるために物資・情報集積地、パラダイスケーブの核攻撃を狙っていた。
アメリカと日本とで物語が展開しますが、テロリストの細胞がそれぞれ独立して行動して行動を起こすので、直接的な接点はなく物語は進みます。合衆国大統領もあらすじに百里基地に降り立つとありますが、あまり重要な役割ではありません。大石先生もブログで語っていますが、政治部分よりも緊急時の市民の行動に重点が置かれています。まあこれは今に始まった事ではありませんが…。
沖ノ鳥島爆破指令
ノベルス版 2005年5月25日初版発行「34-59」
文庫版 2009年9月25日初版発行
日本最南端の島、沖ノ鳥島。東京都はこの島の領有をより確実なものとし、かつ世間の関心を集めるために都職員を派遣する事を決定した。都の万全の支援のもと都職員とその家族、沖ノ鳥島での経済活動を模索する学者たちが上陸をし、その模様はブログとして公開された。
そんな生活もつかの間、環境団体を自称する武装組織が島の観測施設を占拠、護衛の海保SST隊員を射殺し島の爆破を宣言した。
最近色々と注目される沖ノ鳥島が舞台です。本書発売直前に石原慎太郎東京都知事が沖ノ鳥島に上陸してニュースになりました。軍事系小説家として名が通っている大石先生なので軍事物なのは普通でしょうが、沖ノ鳥島に移住した家族のエピソードで話が進んでいくというのも面白いかもしれないなと思います。
またサイレント・コアが活躍するシリーズですが、音無隊長を始めとして土門はほとんど活躍をせず、司馬さんは登場すらしません。活躍するのは近年の作品で目立つ田口陸士長や“魚釣島奪回作戦”で登場した水野陸士長となっています。これからはこうした後発組で物語が進んでいくと思いますが、一度登場したきりのキャラも多いので、これらの人物で新しいサイレント・コアの活躍を見てみたいものです。
ノベルス版 2005年8月25日初版発行(上巻)「34-60」
2005年8月25日初版発行(下巻)「34-61」
イラクで日系人ハワイ州兵部隊が武装勢力から攻撃をうけ捕虜となった。「テロリストと交渉せず」の立場で身代金の支払いを拒否する合衆国政府に痺れを切らした捕虜の家族は、政府に方針転換を促すためハワイ島で副大統領の娘を誘拐、そしてオアフ島の歴史博物館となった戦艦ミズーリが占拠した。しかしそこには訓練のためハワイ入りしていた陸自特殊部隊サイレント・コアが展開していた。
混迷するイラク問題をテーマにしていた作品です。最近のブログに話題にしていたマイノリティーの部隊やゴミをあさって装甲に当てたトラックなどが出てきて、華々しくは無いアメリカ軍の問題点が作品の重要な部分のひとつとなっています。
作品中には日本は出てきませんが、ハワイ島には密林でトレッキング訓練をしている隊長の音無2佐が訓練の指揮をとる分隊が、戦艦ミズーリには司馬3佐の率いる分隊が観光を偽装したミズーリ艦内での作戦行動研修を、そしてイラクで土門3佐が指揮を取る小隊が陸自のイラク復興支援群を警備するためイラクのサマーワにそれぞれ展開していて、物語に関わります。久々に音無隊長が直接分隊を指揮して活躍するものの、蚊取り線香の匂いという僅かなミスによって形勢が不利になり最後に新人に助けられるというのは魚釣島での負傷といい、音無隊長のカリスマ性を下げる方向なのでしょうか。まあ本人は全然気にしていないようだし、後の時系列である新世紀シリーズで音無老人が若い隊員にも負けない活躍をするのですけどね。
文芸書版 2005年12月20日初版発行
文庫版 2007年6月25日初版発行
都立光が丘中学校吹奏楽部が合宿にやってきた神主島。一見普通に見える島だが、必要以上の物資備蓄、食料調達用の田畑、発電設備が整えられていた。来るべき日のために。
そしてその日、吹奏楽部員、合宿ボランティア保養所管理員夫妻は江戸時代初期に迷い込んでいった。
中公ハードカバー第2弾です。初の時代劇小説と言う触れ込みでしたが、大半は吹奏楽部員を始めとする現代人のサバイバルの描写に充てられており、発売日前に作者ブログで活躍すると言われていた与力二階堂権左右衛門はかなり後半に出てきます。どちらかというと、単行本未収録の「待ちに待った核戦争」に近いでしょうか。ただサバイバルに重点を置きすぎたという感もあり、その時代の人間である甚兵衛や四郎、二階堂権左右衛門たちが出てくる辺りから駆け足になるという印象を受けました。
ノベルス版 2006年10月25日初版発行(上巻)「34-62」
2006年10月25日初版発行(下巻)「34-63」
日本中国双方が領有権を主張する東シナ海排他的経済水域、中国ガス田付近で韓国海軍最新鋭潜水艦が原因不明の爆発を起こし沈没した。一方ガス田ではテロリストの集団が施設を襲撃し占拠していた。テロリストは潜水艦捜索に急行した海上自衛隊のP-3C対潜哨戒機を攻撃、撃破する。日中韓一触即発の中、日本は海自潜水艦救難艦を遭難海域に派遣するが…。
久々の新刊です。2005年末のオフ会で大石先生は2006年2月発売と言っていたのですが…。
国境係争問題シリーズとして定着したかもしれません。サイレント・コアも登場しますが、主役というわけではなく脇を固める位置付けです。またサイレント・コアを引き立たせるためにSSTなど実在の部隊を弱く描いているという描写が今回は無く、SBUもサイレント・コアのサポート部隊として活躍します。SBUも以前は海軍陸戦隊として登場したのですが、現実世界との整合性を優先したのかこの呼称は使われませんでした。
しかしこの作品もう少し早く出ていれば、タイムリーな作品になったと思えるのですが。東シナ海も最近は北の核の話題にかき消されていますし、まさか本当に北がミサイル試射、核実験を行なうとは年初では思わなかったでしょう。
ノベルス版 2007年2月25日初版発行(上巻)「34-64」
文庫版 2010年2月25日初版発行
北海道で狂犬病に似た奇病が発生、瞬く間に蛍市を中心に爆発的な勢いで広まった。休暇で帰省をしていたサイレント・コア隊員御堂は発症し凶暴化した野犬群に襲われた中学生たちを保護、かつて母校だった廃校内に立てこもる。一方蛍市では同じく発症した野犬や人間が、街を恐怖と混乱に陥れていた。この異常事態の裏で蠢く影があった。
バイオハザードものです。合衆国シリーズや朝鮮半島を隔離せよにて重要な役割を担った化学科の草鹿二佐も登場し、台詞中に前記の作品と今作品の関連も匂わしています。またサイレント・コアの所属が第一空挺団から特殊作戦群隷属に変更されています。これで製作した識別帽の表記は過去のものに…。サイレント・コアですが、土門と司馬は出てくるものの、最近影の薄くなった音無隊長は今回とうとう出てきませんでした。
ノベルス版 2007年5月25日初版発行(上巻)「34-65」
2007年5月25日初版発行(下巻)「34-66」
近年資源開発の進むロシア極東サハリン。モスクワが影響力を行使する為にロシア海軍歩兵部隊派遣した。これが地元陸軍警備部隊や地元の民族主義者の反感を呼び、各所で戦闘が勃発する。外務省嘱託職員としてサハリンに派遣されていた音無も戦闘に巻き込まれ、労働者をまとめながら攻撃を食い止めていた。
国境紛争シリーズと銘打たれたシリーズの最新刊です。最近の大石先生の傾向として子供とサイレント・コア、謎の武装組織が重要施設を占拠或いは攻撃というパターンが多いように思われます。老練な元ロシア特殊部隊隊員と音無隊長との駆け引きが今回の見所のひとつですが、相手であるイヴァン側が戦術を今ひとつ理解しない民兵の指導者や片足を失っている事など、ややハンディを負い過ぎている印象がありました。しかしイヴァンが完璧な状態であれば、本編中でも漏らしている様に音無隊長はかなり不利な状態に追い込まれていたのでしょう。
新型兵器として七式試作多目的無人機“クルス”が登場しますが、この開発者がちびっ子丸メガネの姉弟で互いを“ボク”“お姉様”と呼び合い司馬さんに煙たがられています。どうも司馬さんはヲタには免疫が出来ないようですね。
文芸書版 2007年10月25日初版発行
文庫版 2009年2月25日初版発行「お 67 3」
尾道市役所に密かに語り継がれる一つの伝説。それは20年以上も前に予約された市民ホールでの、市民オーケストラによるクラシック・コンサート。予約をした本人は直後の交通事故に他界し、不可思議な予約として申し送りがなされていたが、一人の新任教諭が尾道に訪れることにより大きく動き始めていくことになった。
ハードカバー第3弾です。尾道を中心として物語は進みます。謎とされる主人公の母親が行なった予約と、その直後の交通事故死。これらを主軸に当初は個々のエピソードが平行して進みつつ、実は交通事故に関わりながらオーケストラとして一つにまとまっていきます。
同時に殺人事件も扱い、サスペンスの要素も取り入れており、また交通事故とは無縁ですが音楽隊に所属していた元自衛官登場して、大石英司作品らしさも併せ持っています。