各車両を区別する 形式の付け方
大手私鉄の形式の付け方は各社によって異なりますが、旧国鉄や大半のJRと比較すると結構難しいものとなっています。当然の事ながら一定の法則が存在し、車番を見ればその車両がどのような機能を持つものなのかがわかるようになっています。ただ何事にも例外は存在して、例えば改造等で車番が変更されたり、逆に電装解除や先頭車化改造を行ったとしても車番を変更しないなどの事例もあり一筋縄ではいかないものも存在します。ここでは各社の一般的な車番の付け方を紹介しながら、例外となるものを一部書いていきたいと思います。
私鉄のほとんどでは車番は四桁で表わしています。千の位まであれば単純に考えて1万両まで対処できます。しかしJR以外の民鉄で最大両数を誇る東京メトロでも2700両程度、他大手私鉄でも1000~2000両程度が標準的で、総延長距離の短い阪神などでは350両程度、神戸電鉄に至っては200両にも達していません。これなら三桁でも全然問題無いようにも思えます。それでも四桁とするのは、鉄道車両は長いスパンで使われて、時代によって同時期に現役でいる形式が複数の時代として考えると多くなる事と、個々の車両が持つ機能を車番によって判り易くするために更に細かく区分するため、形式に使われる範囲にありながら使われない番号も発生するためで、余裕も考えて四桁にしているものと考えられます。モノクラスの一般的な通勤車両でも制御電動車(Mc)、中間電動車(M)、制御車(Tc)、中間付随車(T)と基本的なものでも区別すべき区分はこれだけ存在し、電動車がユニットを組むのならば電動車(M1)(M2)と区分されます。事業者によってはコンプレッサーや補助電源装置、中間運転台の有無などによって更に区分されたりします。その他には2両組成や4両組成など編成組成の違いで細かく区分が変更されている例も存在します。
また特急車と一般車を桁数で区別する場合もあり、東武では特急車はそれなりに編成数はあるものの形式としては数少ないので三桁で区分しています。ただ三桁というものの、編成番号はハイフンで三桁の他に付帯しているので実質的には四桁といっても良いのかもしれません。近鉄では特急車は頻繁にモデルチェンジを行い両数も多いためか五桁で区分しています。南海も特急車は五桁を用いていますが、これは四桁では3000~4000番台しか空いていないからだと思われ、尚且つ南海では南海本線と高野線で複数の特急車が運用されているので、この程度では収まらないのではないかと判断されたのかもしれません。
千の位の数字の意味
四桁表記では千の位は広範囲な形式の括りとして使用されています。大量に導入される形式は1000系や5000形など千の位だけで形式として括られます。関東私鉄の多くはこうした例が多く西武や相鉄、小田急にみられ、関西では阪神の急行用車両や近年の京阪などがこうした形式の付け方をしています。他の大手私鉄でも千の位は形式の大きな区分として用いられますが、モデルチェンジを行ったりすると百の位や場合によっては十の位で細かく形式区分を行います。前述の西武などはこうした細かな形式区分は近年では行っておらず、新形式車が導入されれば千の位で形式を変更しています。このように千の位は形式の期間といえる重要な位といえる存在であるといえるでしょう。最近では形式が多くなり五桁の形式も出てきましたが、これは四桁の形式区分の延長だといえ千の位と万の位の二桁で大きな形式を区分しているものといえます。
基幹形式からモデルチェンジやマイナーチェンジが行われている形式では前述の通り百や十の位で区別され、例えば東急の新5000系では田園都市線用の5000系、東横線用の5050系目黒線用の5080系区分していますが、車両の基本は同じで、それそれの先駆の特性に合わせた細かな変更が行われているので十の位での形式変更となっていて、これら3形式を合わせて5000系列と纏めています。同じ様な形式の分け方としては東武50000系が挙げられ、こちらも路線別で十の位を使って細かな形式区分が行われています。
各自業者には様々な事情があることもあり、例えば京急と京成は都営や北総鉄道などと乗り入れ協定を結んでおり、形式に関しても各事業者が重複しないよう使える番号が決められて割り振られていて、京急は1000番台まで、京成は3000番台、都営車が5000番台、北総鉄道が7000番台、千葉ニュータウン鉄道が9000番台となっており、各社の乗り入れ車両はこれに当て嵌まるように形式番号が調整されます。京成は一般車両の大半が都営と京急へと乗り入れるためか全てが3000番台に収まっていて、形式区分は百の位で分けられています。京急は乗り入れ車は1000番台に収めていますが、600形のみ例外となっています。これに関しては他社に6000番台が無かったことと三桁で1000番台以内としていますが、ハイフンで各車の番号をつけているのでこれも実質的には四桁といえます。
名鉄は千の位で大まかな車種の区分を行っていて、000番台(三桁車)は地下鉄乗り入れ用、1000番台2000番台は特急車で基本的に2000番台にインバータ制御車を割り当て、3000番台はインバータ制御の一般車、4000番台は瀬戸線のインバータ制御車、5000番台はSR車或いはそれに準拠するもの、6000番台は抵抗制御車やチョッパ制御車と割り振られています。以前は7000番台にパノラマカー系列を8000番台に気動車などやや特殊な特急車に割り振られていましたが、7000と8000の区分は2013年現在は現有車両は存在しません。こうしてこれらの車種区分から該当する形式を百の位と十の位で区分をしています。
阪神は普通用のジェットカーを5000番台に収めていますが、それ以外の急行用は1000番台から4000~5000番台を除き9000番台までと幅広く割り振られています。5000番台は前述の通りジェットカーが使っているからですが、4000番台は恐らく忌避番台として避けているのだろうと考えられます。
百の位の数字の意味
百の位の数字はかつては千の位で大きく形式を分けるのに使われ、百の位で中規模なモデルチェンジを行った時に割り振られてきました。東急の7000系シリーズ、南海の6000系と6100系、7000系と7100系、京阪の2000系シリーズ等が相当します。京阪は軽量車体の新性能車として従来の京阪の車両のイメージを大きく変えた2000系を登場させましたが、後に登場した2200系は2000系では全電動車であったのを付随車を導入して省エネ経済性を高め、2400系では新製時から冷房装置を搭載しました。2600系は時代や運用的にそぐわなくなった2000系を車体と台車、制動機器を流用しながらも、冷房装置と制御機器を新規製造したものです。この流れはラッシュ時の運用に焦点を当てた5000系を除き、昇圧を視野に入れつつ次世代主力車として大幅にモデルチェンジされた6000系が登場するまで、京阪線の顔として君臨しました。しかしこれら東急、南海、京阪もマイナーチェンジでも形式を変えるのは基本的に千か万の位にて区別するようになり、このような百の位で区別するのは少なくなりました。東急の新5000系シリーズは十の位で区別していますが、これは基本的な部分は各車5000系共通で、保安機器など路線ごとの事情によって一部搭載機器を変更しているだけとなっています。またデザイン的にも大幅に変更した大井町線優等用の新6000系や車体全長18mにし3扉にした多摩川線用の新7000系は足回りは新5000系を基本としてですが、マイナーチェンジとしての百の位での区分ではなく千の位での区分となっています。これは新5000系が大量に増備されて5000番台に附番する余裕が無いのと、後述するように新5000系は百の位で編成号車数を表わしているので、形式としての番号を収めにくいという事情もあります。
京阪では6000系以降の新製車では7000系のマイナーチェンジ車として7200系が存在していますが、その他は千の位で形式区分をしています。ただ13000系は10000系と新3000系をベースに造られて、10000系と3000系を足した形式区分という意味と万単位の形式になったので、本来百の区分だった部分が千の位に繰り上がったという意味合いもあるのでしょう。
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近鉄では各種機器がメーカーで変更されたり、従来とは違うものと交換されると形式が変更されるものの、連番が付けられるので、大まかな括りでは千と百の位が同じならば同一形式と考えてよいのですが、シリーズ21等の例外もあります。(十の位の数字の意味で後述予定)百の位の部分が偶数が電動車で奇数が付随車となっています。21000系など一部の特急用固定編成は関東大手私鉄でよく見られるような、百の位は連結位置を表すようにしています。このように百の位で電動車と付随車を分ける例は名鉄や神鉄、西鉄など今でもみられる形式付加方法で、かつては多くの大手私鉄でも行われていた手法でした。多くの場合原番プラス百か二百辺りをつけて区分しますが、南海6000系の様にかなり離れた番号を使う例もあります。ただ後に登場した6100系や6200系、6100系の更新車6300系は近い数字で対応していたりします。
3桁の形式
大手私鉄の形式は4桁が基本でその延長として5桁の形式が存在します。しかし僅かながら3桁の形式も存在します。3桁の形式が存在するのは、東武、西武、京成、京急 東急、名鉄、京阪、西鉄でそれぞれ法則があります。また3桁の形式としながらも車番をハイフンで分けるものもあり、これらは実質的には4桁や5桁と変わりがないといえるでしょう。
まず特急車を3桁とする例は東武と京成です。特急車に桁の少ない形式を与えるのは、保有する車両数が少数だからというのと、一般車とは違う特別な車両形式だという鉄道会社の意識の現われだともいえると思います。東武が特急車を3桁にするのは、実は歴史的にはあまり古くは無く、過去には1800系や1720系など特急車にも4桁の形式をつけていて、100系“スペーシア”登場から3桁特急車を採用し、200系、1800系改造の300系が登場しています。京成はAE100形のみ3桁形式を採用していて近年の京成ではこの形式だけとなっています。スカイライナーとして用意された形式は歴代3種ありますが、初代と現行の3代目はAE形を名乗り車体などの表記ではAE1となっているので、実質的には1桁形式といっても良いかもしれません。
軌道区間用として3桁形式を採用しているのは東急と京阪で、鉄道線、本線系統の形式と明確に区別するために3桁としているものと思われます。近年まで軌道線を保有していた名鉄も軌道線や600V区慣用の車両には3桁を採用していましたが、こちらは両運転台だった本線系旧性能車のモ800や新性能車両にも3桁を採用しているので完全に振り分けていたというわけではありません。これについては後述します。かつて軌道線を保有していた西鉄は現存する天神大牟田線など鉄道線系と廃止された北九州線、福岡市内線などの軌道線系が存在しましたが、形式の桁数で鉄道線と軌道線の区別は行っていなかったようです。また軌道線ではありませんが近鉄では762ミリ軌間の路線で3桁の形式を採用しています。
前述した名鉄は現在保有する3桁形式は地下鉄乗り入れ用の形式となっています。これは地下鉄乗り入れ車が名鉄標準の18m級3扉車と違って、20m級4扉車なため、車両的にも共通運用はまったく前提としていないからでしょう。100系と200系、300系の3種類が現在運用されていますが、基本的に200系は100系のマイナーチェンジ車で、制御機器が100系に準拠したものは200の数字を持っていても100系200番台と基本的に100系として扱われて、完全にインバータ制御を採用した215Fの1編成のみが200系を名乗ります。100系と100系200番台、200系は名市交鶴舞線乗り入れ用の形式で共通運用を組んでいます。しかし300系は名市交上飯田線に乗り入れる形式で、20m級4扉という点が同じというだけで、それ以外は共通化されていませんが、犬山で顔を合わせる機会があるのは趣味的には興味深いといえるでしょう。
京急は名鉄とは逆で基本的に地下鉄へ乗り入れない形式に3桁を採用しています。基本的にと書いたのは、3桁形式の中で唯一600形が地下鉄都営浅草線に乗り入れられる仕様となっていたり、反対に地下鉄へ乗り入れない2000形と2100形が4桁形式を名乗っているからです。もっとも近年では京急線内のみの形式は製造されておらず、今後作られるとしても快特用2100形後継車だけであると思われるので、この区分もあまり大きな意味を持たなくなると思われますし、新形式の3桁車は登場しない可能性が高いと思われます。。
この他に古い車両は3桁を使っていた事例があります。西武は新101系と301系まで3桁を使っていましたし、西鉄も現在600形と313形が貝塚線に残っています。現在は4桁形式しか存在しない事業者でもかつては京成や阪急、京阪、神鉄、山陽が3桁形式を採用していました。ちなみに西武の3桁形式車は伝統的に電動車は3桁で付随車は電動車の車番プラス1000で4桁となっています。現在西武では4桁から5桁に移行しており今後3桁形式が復活する事は無いと思われますし、京阪も新形式が5桁、阪急と京成は既に廃形式となった区分を新形式に与えていますがいずれも4桁の部分で、こちらも恐らく3桁形式車が復活する事は無いでしょう。
<続く>