単線・複線・複々線

路線の基本、単線
 鉄道路線に於いて単線というのは非常に初歩的で基本的といえる形態です。それこそ一本の車両編成と一本の線路があれば鉄道は成り立ちます。このような鉄道形態は極論のように思えるかもしれませんが、門司港に存在する門司港レトロ観光線はたった1編成で九州鉄道記念館駅と関門海峡めかり駅を往復していて現在日本で一番最小限度の運行形態となっています。ただこれは観光鉄道という特殊な事例で、地域輸送を主目的とした一般的な鉄道では関東鉄道竜ヶ崎線でだいたい片道4.5キロを7分くらいで走破する路線で駅は全部で3駅しかなく、ダイヤは日中毎時2本、ラッシュ時でも3本で列車交換の必要性も無いことからいずれの駅も1面1線という構成となっています。終点竜ヶ崎駅には検修施設があるのでここにのみ本線上に分岐装置が存在します。列車運行密度が1編成で済むようなものであれば設備はこれだけ単純なものになりますが、少しずつ規模を大きくしていって色々と付け足していけばより複雑なものとなってきます。まずは1本の列車だけで運行を行おうとするとどうしても輸送力の限界に陥ってしまい、編成数を増やしていく事となります。そうすれば1本の線路だけでは当然足りなくなってきてしまいます。まずは起点か終点の線路を2線に増やして2本の編成を同時に留め置けるようにするのが、一番簡単な増設方法でしょう。ですがこの方法だと一方の編成が動いていると、もう一方の編成は動くことはできません。両端の駅だけを線路増設しても続行運転の繰り返しで均等なダイヤを組むのは難しいと思われます。こうして単線で路線を延ばすのに必要な設備が中間駅で列車が擦れ違うことが出来る列車交換設備です。前途の竜ヶ崎線の場合、全線走破で7分掛かる路線で1本だけの運用では折り返しの時間を可能な限り無視をしても15分ヘッドでの運転しか出来ませんが、もし仮に中間駅の入地駅に交換設備を設けたならば、10分を切るダイヤも設定が可能となります。
 大手私鉄の多くは乗客数が多いため、ターミナル付近など基幹部は全て複線以上となっていますが、大抵の事業者は路線の規模が大きいので一部の支線や本線の末端区間などに単線区間は存在します。京阪と東京メトロは全区間複線化されていて、数少ない単線の存在しない事業者となっています。この他には東急や相鉄、小田急も自社直営の旅客営業路線では単線は存在しませんが、東急では横浜高速鉄道が保有する単線のこどもの国線を第2鉄道事業者として運営を行い、相鉄は貨物線の厚木線が単線となり、小田急は全線複線ですが実質的に全列車が小田急所有車で運行されている箱根登山鉄道の小田原~箱根湯本間は単線になっています。

大手私鉄の単線区間
会 社 名 路線名 区 間 備 考
東武鉄道 伊勢崎線 館林~伊勢崎  
大師線 全線  
佐野線 全線  
桐生線 全線  
小泉線 全線  
宇都宮線 全線  
鬼怒川線 下今市~鬼怒立岩(信)  
鬼怒川温泉~新藤原  
野田線 春日部~逆井間の一部区間多数  
逆井~六実  
東上本線 嵐山(信)~寄居  
越生線 坂戸~武州長瀬  
東毛呂~越生  
西武鉄道 池袋線 飯能~北飯能(信)  
武蔵丘(信)~吾野  
秩父線 全線  
豊島線 全線  
山口線 全線  
新宿線 脇田(信)~本川越  
拝島線 玉川上水~武蔵砂川  
西武立川~拝島  
国分寺線 国分寺~羽根沢(信)  
恋ヶ窪~東村山  
西武園線 全線  
多摩湖線 全線  
多摩川線 全線  
京成電鉄 本線 空港第2ビル~成田空港  
成田空港線 成田湯川~成田空港  
千原線 全線  
金町線 全線  
東急電鉄 こどもの国線 全線
京王電鉄 動物園線 全線  
高尾線 高尾~高尾山口  
小田急電鉄 無し  
京浜急行 久里浜線 京急久里浜~京急長沢  
三浦海岸~三崎口  
帝都高速度交通営団 無し    
相模鉄道 無し  
名古屋鉄道 竹鼻・羽島線 全線  
尾西線 弥富~佐屋  
森上~名鉄一宮  
広見線 新可児~御嵩  
小牧線 小牧~犬山  
築港線 全線  
河和線 河和口~河和  
知多新線 全線  
三河線 猿投~梅坪  
豊田市~知立  
重原~刈谷  
刈谷市~碧南  
西尾線 新安城~桜井  
南桜井~西尾口  
西尾~吉良吉田  
蒲郡線 全線  
豊川線 全線  
近畿日本鉄道 信貴線 全線  
湯の山線 全線  
鈴鹿線 全線  
志摩線 中之郷~船津  
上之郷~志摩礒部  
生駒線 南生駒~萩の台  
東山~王寺  
田原本線 全線  
道明寺線 全線  
長野線 富田林~河内長野  
御所線 全線  
吉野線 全線  
内部線 全線  
八王子線 全線  
阪急電鉄 甲陽線 全線  
嵐山線 全線  
京阪電鉄 無し    
南海電鉄 高師浜線 全線  
多奈川線 全線  
加太線 全線  
和歌山港線 全線  
高野線 橋本~極楽橋  
阪神電鉄 武庫川線 全線  
山陽電鉄 網干線 全線  
神戸電鉄 有馬線 有馬口~有馬温泉  
三田線 有馬口~岡場  
田尾寺~横山  
粟生線 鈴蘭台~西鈴蘭台  
藍部~川池(信)  
押部谷~粟生  
西日本鉄道 天神大牟田線 試験場前~大善寺  
蒲池~開  
大宰府線 全線  
甘木線 全線  
貝塚線 全線  

注1.一部路線には駅構内などでの単線や、1面1線のホーム形式を持つ駅も存在するが、ここでは割愛。

※1.こどもの国線の所有は横浜高速鉄道。
※2.小田急線に単線は存在しないものの、小田急車で運行される箱根登山鉄道の一部区間が単線。
※3.旅客営業を行っていない厚木線が単線になっている。

 表にして纏めてみると本線系統でも末端区間は単線が存在する路線は多くみられます。東武伊勢崎線と東上線の二大幹線は両者とも末端部が単線化されていますが、現在はこれらの単線区間は運用系統としては分離されていて、運用上は別線扱いといっても良いでしょう。この点は南海高野線も同様の事例です。京成の場合は成田から成田空港へいたる区間がJRと複線分の用地を分け合っている格好になるので単線となっていますが、京成としては用地があれば複線化したところでしょう。西武新宿線も末端区間が単線となっていますが、終点本川越に程近い僅かな区間だけなので、それほど運用上の支障は無いのかもしれません。
 本線末端に近い形で路線の籍としては別線ながら運用上は本線といってよい区間で単線となっているのは、西武池袋線と秩父線、京急本線と久里浜線、京王の京王線と高尾線、近鉄南大阪線と吉野線、同じく近鉄大阪・名古屋線そして山田・鳥羽線と志摩線、南海本線と和歌山港線でしょう。これらの路線は支線の列車のほぼ全てが乗り入れるものの、本線側からみれば一部の列車しか乗り入れないために運用的には単線でも十分にこなせるものと判断座され単線で残されているのだと思います。そして直通を行うのは「特急」など優等列車が主となっていて、「普通」は支線内運用かそれに近い形となっています。こうした点では前述の本線末端部分とさほど変わらないのでしょう。また名古屋本線の豊橋~平井信号所間は見た目も運用上も複線ですが、上り線を名鉄が、下り線をJRが保有する共用区間となっていて、一応名鉄としては線籍上では単線となっています。
 支線の単線区間としては都心部近郊の支線では少なく、地方の支線で多くみられますが、これも例外は多々あります。都心部の支線でみられる単線区間は、えてして距離の短い路線で東武大師線や西武豊島線、京成金町線、名鉄築港線、近鉄信貴線、阪神武庫川線、西鉄大宰府線が挙げられます。

大手私鉄の主流 複線

輸送力増強 複々線
 多くの私鉄では複線が主体になっていて、複線で利用客でラッシュの大半を賄うことができますが、大都市圏や幹線と亜幹線が合流する区間などでは複線でも線路容量が不足してしまうことがあります。このため複線に更に複線を増設して対処する事もあります。これが複々線ですが、すべての事業者に存在しているわけではなく、相鉄や神鉄、山陽、西鉄には複々線の区間はありません。路線形態からするとやや特殊なものと考えても良く、どうしても必要な場合にしておくのがよいでしょう。
 大手私鉄での複々線には大まかに分類して2形態あるといえます。まずは緩急分離を行い各駅停車など下位列車と、急行などの上位列車と走行する線路を分けて優等列車を円滑に運転させるもので京阪本線や東武伊勢崎線、西武池袋線、小田急小田原線などが挙げられます。もう一形態は利用客の多い路線が合流する路線で主要駅まで別路線が並行するという運行形態で複々線を形成するというもので、京成青砥付近や名鉄金山付近、阪神尼崎付近、近鉄鶴橋付近などが挙げられ、特に阪急では京都本線と宝塚本線、神戸本線が梅田~十三間でそれぞれ合流並走する3複線となっています。

 


<続く>