音無隊長の休日
音無隊長は、最近自分が無趣味であることに気がついた。
そろそろ定年後の事も考えて、趣味の一つでも見つけなければならない。
にわか仕立ての趣味は好みではない。趣味というのは長く続けてこそ価値がある。
なんだか小難しいことを考えつつ、隊長は休日の朝、本屋に立っていた。
「アヴァロン」が実際にあれば話は早いんだが……」
“まじですか?!”
先日、息子が買ったDVDを思い出し思案に暮れる。
自分の年齢を考え、なおかつ悪趣味で無い物。
候補
だが、この中から4を残して全て破棄された。
理由
1、ハイキング
仕事でもっとハードにやっている。故に、のんびり歩くのはめんどくさい。
ゆっくり歩いて山を散策してもどうしても仕事の事が浮かぶ。
2、山のぼり
上に準ず
3、囲碁、将棋
暇な時に隊でやっている。
5、読書
今と変わらない。
何気にめんどくさいから嫌だという理由が多いが、隊長はそれを気がついていなかった。
本屋の棚を見て歩く。
やはり盆栽だ。
早速本を買い、ついでに○急ハンズにお買い物。
最近、癒し系という事で、流行っているらしい。
色々と置いてあった。2つ、なんとなく気に入った物を買う。
ついでに、目に入った、盆の上で小さな庭を演出するキット。
「…………ま、いっか」
買った。
昼過ぎに家に帰った。
奥さんは居間でゆっくりと隊長の制服用のセーターを編んでいた。
娘は娘で、電動ガンの整備をしていた。
最近、バイトをして人参社のアサルトライフルキットを買ったらしい。司馬と話が合うようだ。
少し問題。
まだ田口の方がましだろう。
比較論だが。
ああ、こんな時に吉村がいたら……。
“後ろにいるんすけどね”
「あら、盆栽ですか?」
奥さんが珍しいものを見たように(実際に珍しい)言い、
「パパ。出張中誰が面倒みるの?」
いかにも当然と言うように反論する。
こうなると、根っからの頑固者、てこでも引けない。
「やかましい」
一言残し部屋に篭った。
「さて」
数時間後
お茶を持って障子を開けた奥さんが見たものは
大きめな盆の上に、綺麗な庭が造られていた。
小さな盆栽がそれを彩り見事な風流さをかもし出していた。
たった一つの問題はボトルキャップのタイガーⅡが一つ鎮座している事。
そして製作者の隊長は、頭にさらしを巻いたまま畳の上で大の字で寝ていた。
隊長が作った見事な庭は、暫くの間、音無家の床の間に飾られましたとさ。