オルタナ日本(上) 地球滅亡の危機
ノベルズ版 2020年5月25日初版発行「34-128」

 昭和末期の中曽根政権下で自主憲法を制定し、自衛隊が軍となった日本。バブル経済も日銀が軟着陸させたおかげで良好な経済状態が維持された。しかし2020年の異なる世界では謎の感染症が蔓延し、シンクと呼ばれる異常現象が起き、滅亡を迎えようとしていた。この状況に奔走する土門陸軍中将だが、中国が軍を日本に向けて動かし始めていた。

 長編シリーズ間のトンデモ短編です。とうとう2020年になってしまいました。「サイレント・コアガイドブック」でも大石先生は「新世紀日米大戦」の時系列を2020年問題として気にかけていましたが、恐らくはこの問題を回避する意味合いで、近作の中編に於いて似て非なる並行世界作品を発表しているのではないかと思われます。また登場人物が何らかの違和感を感じているのと、上巻ラストの展開からして現行世界や超戦艦「大和」の世界ともリンクしているものと思われるので、どう馴染ませてくるかでしょうか。余談ながら表紙を見て93式艦上戦闘攻撃機“海燕”が登場!?と思いましたが、残念ながらそれは違っていました…。

オルタナ日本(下) 日本存亡を賭けて
ノベルズ版 2020年7月25日初版発行「34-129」

 中国軍による国際リニアコライダー「響」奪取作戦が行われる中、日本本土でもシンクが発生した。人的被害はなかったものの、中から一人の女性が出現した。この世界の人間ではないらしいこの女性は別政界での孔博士の娘で、土門将軍配下の原田に好意をもっていた。しかし事態は予断を許さず、ブラジル付近で発生した巨大シンクにより、日本そして世界が未曽有の大災害に飲み込まれようとしていた。

 中編では前作の並行世界シリーズに登場した天才科学者榎田萌が再び登場します。恐らく原田への強い愛がそうさせたのでしょう(笑)。空母艦隊に国際リニアコライダー…、もう少し景気が良ければと思いますが、コロナ禍でさらに景気が悪くなり更には中国が勢力圏拡張の野望をあらわにし始める。恐ろしい世の中です。


東シナ海開戦1 香港陥落
ノベルズ版 2020年10月25日初版発行「34-130」

 香港を手中に収めた中国が次に狙いを定めたのは台湾。まずは台湾が実効支配するものの、香港の方が距離的に近い東沙諸島を占領すべく上陸部隊を仕向ける。一方尖閣諸島近海では台湾空軍のF-16が中国海警戦を撃沈する。そして海自は中国艦隊の偵察にP-3Cを差し向けたが、対空ミサイルにより撃墜される。不穏な情勢の中で戦いの火ぶたが切られた。

 長編新作ですが、第三次世界大戦シリーズとの関連性は無いようです。ただ原田一尉は「誰一人の記憶もなく」結婚していることになっています。配偶者は“話に絡んでくれば”間違いなく物語のキーマンになるのでしょうが、まだ序盤の段階ではどう転ぶかわからない謎の存在となっています。

東シナ海開戦2 戦狼外交
ノベルズ版 2020年12月25日初版発行「34-131」

 超豪華客船内部で発生した未知の伝染病が中国当局の警戒の目をすり抜け中国国内に。それに先立ち船内でも伝染病患者が増え始める。一方中国軍が占領した東沙島では孤立した台湾海兵隊を救出すべく米軍と自衛隊が動き始める。しかしその任務は困難を極めた…。

 昨今のコロナ禍を反映したかのような流れですが、この後の大陸でのパンデミックに対し中国をロックアウトするような言葉が帯に記載されてはいますが、果たして中国が自発的に伝染病を封じ込めるのか…。もし封じ込めても中国だけが損をすると判断すれば中国は世界中にウイルスを流出させるようすべてを開放するだろうと思っています。実際今回の武漢コロナでも中国はロックアウトをすることなく世界中にウイルスを流出させたうえで、マスクを中華5Gとセットなど自国に有利な条件で配布したり、世界混乱に乗じて影響力を広げようとしています。イギリス軍が太平洋に空母を派遣すようとしていたり、フランスも太平洋の元植民地警備を表向きの理由に軍を派遣しようとしてるなど、欧米各国は中国に対して相当腹に据えかねている状況になっているようですし、前シリーズの第三次世界大戦のように、中国の経済力でゴリ押しするという無茶は通じなくなりつつあるようにも見えます。

東シナ海開戦3 パンデミック
ノベルズ版 2021年1月25日初版発行「34-132」

 台湾領東沙島に取り残された台湾海兵隊を救うべく、台湾海軍と海上自衛隊の潜水艦
が現場海域に接近するがわずかなミスにより台湾潜水艦の存在が暴露される。この危機に海自潜水艦“おうりゅう”はその高い戦闘力で中国海軍を翻弄するが、これが台湾当局の目に留まってしまい際どい立場に立たされてしまう。中国国内はウイルス拡散を目論む人間を突き止め対峙するが、パンドラの箱は開けられてしまった。

 大石先生の得意分野である潜水艦の描写にページが割かれている巻です。世界初のリチウムバッテリー搭載艦である“おうりゅう”が活躍し、旧式艦との格の違いを見せつけています。また中国側も潜水艦関連の技術は低いとされながらも、様々な方式を使い潜水艦探知に挑んでいます。別エピソードの顔認証すり抜け、覇権交代のAIに探知されない特殊な模様など、隠れる技術とそれを探知する技術の応酬が最近の主眼と言えるでしょう。


東シナ海開戦4 尖閣の鳴動
ノベルズ版 2021年3月25日初版発行「34-133」

 未知のウイルスが広まったクルーズ船内では元海幕長までが犠牲となった。一方東シナ海では中国軍の無人戦闘機が空自の体力を蝕んでいく。そしてきわめてデリケートな状態にある尖閣に武装したグループが上陸しているのが判明した。日台中のうち日本の集団はサイレント・コア元隊長である音無がかかわる民間軍事会社の人間だった。中国海軍の陸戦兵部隊が魚釣島に上陸しようとするなか、土門陸将補率いるサイレント・コアもまた魚釣島に乗り込もうとしていた。

 この巻においても従来では見られないような新たな戦闘が繰り広げられます。ミグ21など既に二線級にもならない旧式を使い捨て同然の無人機に改造して空自や台湾軍に無駄玉や燃料を浪費させたり、一方の海自はイージス艦のフェイズド・アレイ・レーダーのレーダー波を一点に集中させ中国空軍の警戒機の電子機器を焼き切り沈黙させたりと、理論上は可能でも現実の戦闘ではまだ行われていない戦い方が繰り広げられます。


東シナ海開戦5 戦略的忍耐
ノベルズ版 2021年5月25日初版発行「34-134」


 尖閣諸島魚釣島に上陸を果たし元自衛官による民間軍事会社と台湾軍と合流をしたサイレント・コア。中国軍はミサイルの飽和攻撃で対抗するが、イージス艦により辛くも防御する。しかし日米台は装備と士気ともに余裕がなくなっていく。忍耐の末に優勢に傾くのは日米台か中国か。

 日米は台湾を消極的ながら軍事的に支援をしていますが、作中アメリカは日本よりも前面には出てきません。しかし現実ではアメリカのみならず英仏が中国を抑え込むために、太平洋地域に空母機動部隊や海兵隊を送り込んできています。これらの状況が果たして作中に反映されるかどうか、気になるところです。


東シナ海開戦6 イージスの盾
ノベルズ版 2021年7月25日初版発行「34-135」


 中国軍による飽和ミサイル攻撃を二隻のイージス護衛艦“はぐろ”“まや”にて辛くも凌いだ自衛隊。しかし尖閣近海には中国海軍の機動部隊が近づきつつあった。またイージスのフェイズドアレイレーダーの収束ビーム攻撃を受けて戦力外となった中国警戒機の復旧改良工事がよそい以上に早く進んでいて戦場復帰も時間の問題だった。ついに自衛隊は中国海軍機動部隊を攻撃する。

 ここ最近の展開はイージス搭載のミサイルの値段など高コストの戦闘に苦しむ展開が多くみられますが、とりあえずミサイルに関してはアメリカの協力により何とか弾切れの状態はそれほど長くななく、見返りも戦闘データの提供と予算にもあまり響かないようです。そして日米の主力戦闘機がF-35となりつつあり、「イーグル 旧型の戦闘機」というセリフまで出てくる様は時間が経過してしまったんだなと実感します。


東シナ海開戦7 水機団
ノベルズ版 2021年9月25日初版発行「34-136」


 豪華客船内のテロリストは合衆国特殊部隊によって鎮圧された。しかし客船内の米国人のウィルス感染者が少ないことに関係者は疑問を抱く。一方尖閣諸島では陸自水機団の投入を決定したが、中国軍は切り札を投入して反撃に出た。

 長編前作に続き貧乏記事を引く水機団です。多数の将兵やオスプレイを失った挙句水機団長まで捕虜に取られてしまいます。ところで登場人物紹介での土門は「覇権交代」の時のままの“陸将補 水機団長”とありますが、前作では水機団長が戦死したことにより一等陸佐より戦時昇進のうえで臨時の配属だったので、作品が変わればサイレント・コアに戻っているでしょうし、「東シナ海開戦」では水機団の指揮をとっている描写は無かったのですが、登場人物の項目に惑わされてしまいました。そして団長の松尾陸将補は団司令部本部管理中隊と第一陣の第一水陸機動連隊第二中隊を率いるとあり、作中の実情とは少し異なっています。まあ直近では間違いではないのでしょうが、松尾陸将補を水機団長と明記した方が良いのではと思います。

東シナ海開戦8 超限戦
ノベルズ版 2021年10月25日初版発行「34-137」


 水機団大損害の方を受けた内閣が総辞職をしサイレント・コア創設にかかわったあの男が再び政権の座に就いた。空自は米空軍の協力を得て中国空軍に対抗する秘策を繰り出す。しかし国内には技能実習生に偽装した中国軍工作員が潜入し、首都東京に牙を剥いた。

 前回水機団長について書いてみましたが、正式な団長が捕虜になったことにより結局土門陸将補が再び暫定的ながら水機団長に返り咲きました。F-15EXが大活躍しますがこのイーグルIIは導入費用がF-35と比べて何割か安いという程度で現行のF-15Jの置き換えとしては少々費用対効果で割りが合わないともいわれています。それに今は良い性能でも10年後20年後に高性能を維持できるかという面も。
 そして最終巻ですが話がさらに広がりつつある点や司馬さんが全然活躍どころか姿も見せないことから、第三次世界大戦から覇権交代へと進む流れのようなものと思ったら案の定でした。

台湾侵攻1 最後通牒
ノベルズ版 2022年1月25日初版発行「34-138」


 東京に潜入した工作員により電力や通信がマヒした東京。日本が身動きとれないなか、中国はついに台湾侵攻を開始する。序盤で日米の戦力を削ぐために中国は嘉手納などに弾道弾の飽和攻撃を行うが、その中に紛れて極超音速滑空体DF‐17が発射され東京の人口密集地に着弾した。そしてついに中国軍侵攻部隊の第一陣が台湾本土に上陸する。

 続編新章の始まりですが、今回は間にトンデモ中編は織り込まれませんでした。前作とは2か月の間をおいての通常の小説なら結構速いペースでの刊行と言えますし、更には2巻もすぐに出るようです。ようやく司馬さんの本格的な活躍が見られるようですが、果たして。

台湾侵攻2 着上陸侵攻
ノベルズ版 2022年2月25日初版発行「34-139」


 台湾に侵攻してきた中国人民解放軍2万を撃滅した台湾軍。しかし軍神雷炎大佐の部隊が奇襲上陸を果たす。一方台湾防衛に動き始めた日本に対し東京へのミサイル攻撃を行い民間人の犠牲者も増えるが、住民たちが協力し合い危機状況を乗り切ろうと奔走するが、中国はスマホアプリを使い日本を混乱に陥れようとしていた。

 近年の作品ではサイレントコアを離れて前線に立つことが無かった司馬一佐がようやく戦闘服を着てバヨネットを握りますが、まだ本気を出せていない状態。台湾という一種のしがらみがある中これから昔の司馬さんが見られるのか…。

台湾侵攻3 電撃戦
ノベルズ版 2022年4月25日初版発行「34-140」


 台湾では市街地での戦闘が激化し一進一退の攻防が行われ、台湾陸軍の旧式戦車M-60が戦線を支えていた。また自衛隊は台湾上陸をアピールし、台湾は孤立していないと強調する。一方東京では中国の弾道弾攻撃に怯える都民の心の支えとなるべく東京タワーのライトアップと、それを破壊することによって日本人の士気を挫こうとする中国工作員の攻防があった。両地域とも辛うじて中国の攻撃を退けるなか中国は新たな一手を打とうとしていた。

 軍事行動だけでなく戦時下における後方の混乱も描いていて、ただ軍だけでなく後方の民間人の混乱と克服も描写されています。都内における超限戦は日本も中国も決め手に欠ける状況ですが、現実だと果たして日本側は何とかギリギリでも対処できるのか…。


台湾侵攻4 第2梯団上陸
ノベルズ版 2022年5月25日初版発行「34-141」

 中国軍の前進を何とか阻んだ台湾軍だったが、中国軍は台湾中部に秘密兵器を擁した2万もの部隊を投入し巻き返しを図る。東京では暗躍していた中国の組織を突き止めるが…。

 ドローンやサーモ・バリック弾、大石作品ではこれまでもたびたび使われているものですが、ウクライナでも使われていて現実の軍事組織もその運用法を研究しているものと思われます。ドローンに関してはナゴルノ・カラバフ紛争で各国が評価研究を行い電子戦部隊やドローン対策がなされていると聞きます。自衛隊も電子戦部隊が立ち上がっていますがどのようになるのでしょうか。

台湾侵攻5 空中機動旅団
ノベルズ版 2022年7月25日初版発行「34-142」

 第2梯団の持つ新兵器によって台湾中部を手中に収めた人民解放軍。日本はコンビニなど民間による支援が入り、陸自の投入も検討される。劣勢となった台湾。米軍の本格的参戦はあり得るのか。
 
 ロシアによるウクライナ侵略にてロシア軍の蛮行が晒されたためか人民解放軍は極力紳士的な振る舞いをすべく占領地で行動してますが、現実としては本当にそのように動くことができるのか…。赤い国の軍隊ですからねえ…。現実の台湾情勢もキナ臭くなってきていて日本のEEZにもまるで脅しのようにミサイルを着弾させていたり、いったいどうなることやら。この巻での日本は自衛隊や政府よりもコンビニによるインフラ支援に重点が置かれています。コンビニの名前は特に明言されていませんが、店の看板をよく見ると…。

台湾侵攻6 日本参戦
ノベルズ版 2022年8月25日初版発行「34-143」

 台中を占領し台湾の大部分を支配するに至った中国人民解放軍。台湾内でも人民解放軍になびく勢力が現れる中、対する日本はついに武力介入をするに至り海自護衛艦隊に守られた陸自水陸機動団が台湾に上陸する。

 前作から散々自衛隊は介入してきたわけですが、ここにきてようやく正式に自衛隊が動くとという形にはなりました。首相による表明の中でNATO諸国はウクライナを見捨てたとありますが、協調は取れていないものの、支援はできているとは思います。


台湾侵攻7 首都進攻
ノベルズ版 2022年11月25日初版発行「34-144」

 人民解放軍の目を晦まし台湾に上陸した陸自水機団とサイレント・コア。そして空港周辺では未成年たちで構成された少年烈士団も戦場にいた。陸自も機甲部隊で人民解放軍を炙り出そうとするが…。

 従来長編は8巻で〆るのですが、このシリーズは10巻まで続くようです。
作中では大活躍をするF-15EXですが、現実ではコストがF-35さして変わらなかったりして米空軍でもあまり大きな活躍はしていないようです。またドローンに対処できずに酷評される87式自走高射機関砲ですが、これと同じコンセプトで尚且つ古いゲパルトがドローン撃墜に大活躍したり、小説と現実のすり合わせはなかなか難しいようです。


台湾侵攻8 戦争の犬たち
ノベルズ版 2023年1月25日初版発行「34-145」

 人民解放軍は台湾の大部分を手中に収めたが政治的に陥落するには至らず、台湾軍はいまだに組織的な抵抗を続けていた。そんな状況で中国は民間軍事会社を投入し、様々なドローンも同時に戦場に送り込んだ。AIが兵士を選別し高脅威目標を優先して攻撃するロボット兵器が台湾軍や少年烈士隊に襲い掛かる。

 ウクライナのような偵察観測時々攻撃のようなドローンではなく、積極的に攻撃してくるドローンが多数登場します。ロシアと違い中国はこの方面の研究が進んでいるように思われるので、実際に戦争となったらこのようなAI対人間といった戦闘が発生するのかもしれません。そして中国はスパイ気球やロシアへの軍事援助も示唆したりと、欧州とアジアに戦線が構築されるような第三次世界大戦の勃発も起きるのかもしれません。


台湾侵攻9 ドローン戦争
ノベルズ版 2022年2月25日初版発行「34-146」

 中国人民解放軍はレーダーの能力を低下させる副次効果のある人工降雨を台湾に発生させ、そのすきに新たな部隊を上陸させた。台湾側は陸自と共同で上陸部隊への対処のあたるが人工降雨とドローンに悩まされる。
人民解放軍側もレーダー妨害の利を完全には受けられなかったものの、それでも台湾制圧に向けて進軍を続ける。

 陸自の本格的な戦闘が描かれる本巻ですが、以前と比べると陸自は辛辣な表現で描かれています。昔の日中と違いテクノロジーなど時代に取り残された面を特に強調していて、民間でも失われた20年を重点としています。この辺り難しいところですが作中ほど現実は酷くはなっていないとは感じ思っています。